「いちから聞きたい放射線のほんとう」補足(詳しい人のために)
このページでは、既に放射線や測定についてある程度知っているかたのために、「いちから聞きたい放射線のほんとう」の本文では簡略化して書いたところなどを補足します。ちょっと難しい話もでてきます。知らないと困るような内容ではないので、無理して読まなくてもいいですよ。随時書き足していくつもりです
- 基本方針: 放射線の物理については完全に確立した話なので、あまり議論になるところはないと思います。放射線の健康影響と放射線防護については、国際的な標準であるICRPの見解に従ったものを紹介したつもりです。ICRPの勧告は世界中で放射線防護の標準と考えられて、日本でも関係する法律に取り入れられています(ただし、最新勧告が取り入れられる前に事故が起こって混乱したことは本文にも書きました)。
ICRP以外の考え方もあります。たとえばより安全を強調する立場では、発ガンリスクに被曝の閾値があると考える人(フランスではこれが主流の考えです)や微量放射線はむしろからだにいいというホルミシス説を取る人もいます。逆により危険を強調する立場では、ECRRという組織などを中心にICRPよりもさらに厳しい放射線防護を主張する人たちもいます。しかし、いずれも標準的な考え方ではないので、本文ではほとんど紹介していません(ホルミシスは否定的に紹介しました)。実際、放射線防護の専門家は基本的にICRPの考えを支持していると思います。ECRRを積極的に支持する「放射線防護の専門家」はいないでしょうし、逆に閾値があるとしても低くてわからないというのが今の合意だと考えます。
本書ではあくまでも標準的な考え方を紹介することに終始しました。それがすべての議論の出発点になるはずだからですし、現状ではそれだけ知っていれば充分でもあるからです(2014/6/17)
- p17 元素と原子の違いを曖昧に書いているが、「元素」は同位体も含む総称。そもそも、同位体という言葉は「周期表の同じ場所にある」という意味。(2014/6/16)
- p21 中性子と陽子はほんの少しだけ重さ(質量)が違う。陽子・中性子の質量は電子の1900倍(2014/6/16)
- p22 簡単のために、いちばん外側にいる電子の位置だけを考えたが、実際には電子はもっと内側にもいるし、原子核のすぐ近くにもいる。電子は原子核のまわりで何重かの「殻状」にいると表現されることも多い(原子核に近い殻から、K殻、L殻、M殻などと名前がついている。いくつの殻があるかは、電子の数、つまり陽子の数による)。とはいえ、ここでは原子に比べて原子核がずっと小さくて、原子の中がすかすかだというのが重要(2014/6/16)
- p24 マイナスイオンという言葉は曖昧で、科学用語とはいいがたい。放電や細かい水しぶきで発生するものは「大気イオン」と呼ばれるもので、水中のイオンとは性質がずいぶん違う。ただし、それが体にいいとか気分がよくなるとかいうのは俗説で、検証されていない(2014/6/16)
- p33 あとがきに書いたようにα線、β線、γ線と中性子線をまとめて「電離放射線」と呼ぶ。これは原子から電子を叩き出すほどのエネルギーを持っている放射線という意味。それほどのエネルギーを持たない紫外線やただの光も大きくは「放射線」に含まれる。この本ではα線、β線、γ線を単に「放射線」と呼んでいる(2014/6/16)
- p35 「エネルギー」をきちんと説明すると、それだけで一冊の本ができてしまう。エネルギーは「物体に勢いを与える能力」とでも言えばいいだろうか。勢いよく動いているものは、その重さ(質量)が大きいほど、また速度が大きいほど大きなエネルギーを持っている。これを「運動エネルギー」という。高い場所にある物体を落とすと速度を得るから、運動エネルギーを得る。つまり、物体が高いところにあるだけで、運動エネルギーを得る可能性を持つことになるので、高いところにあれば「位置エネルギー」を持つという。位置エネルギーと運動エネルギーの総和は一定(つまり、高いところに静止している物体の位置エネルギーは、それが地面に落ちたときの運動エネルギーと同じ)というのが「力学的エネルギー保存則」と呼ばれるもの。不安定な原子核はいわば高い場所にある物体のようなもので、余分のエネルギーを「粒の運動エネルギー」に変える。これがα線やβ線のエネルギー。γ線は余分のエネルギーをそのまま光として出すもので、光の粒は波長に応じて決まったエネルギーを持っている(2014/6/16)
- p46 セシウム137ばかり書いて134の話がおざなりなのは、ひとつには半減期が短いので、今後は137だけが問題になるから。もうひとつは、134にはさまざまな崩壊の道筋があって複雑過ぎるから。β線を出してからγ線を出すという基本は変わらないのだが、あまりにもさまざまなγ線が出る。中でも主なものは2本のγ線で、すごく単純にはセシウム134は1崩壊あたりβ線ひとつとγ線ふたつを出すと思っておけばいいだろう(詳しくはγ線が2個出るのではなく、1崩壊につきいっぽうは0.97個、他方は0.86個出る)。セシウム134と137がある時のγ線のスペクトルを見ると、ふたつの134のピークのあいだに137のピークがいる「三つ山」の構造が見られる(2014/6/17)
- p48 β線が当たっても皮膚で止まるからそれほど心配しなくてもいいのは本当だが、大量に当たると皮膚が損傷を受ける。ひどいときには「β線熱傷」という症状になる。これは熱傷とは書くものの、やけどとは全然違う。今のように地面が放射性物質で汚染されている状況では、β線による外部被曝を考える必要はない。福島第一原発で作業員の靴の中に放射性物質を含む水がはいって足をβ線被曝した事故があったが、幸いβ線熱傷に至らずに退院している。なお、ストロンチウム90が崩壊してできるイットリウム90が出すβ線は比較的エネルギーが大きくて、空気中でも1mほど飛ぶ(2014/6/16)
- p50 セシウム137がバリウム137になる道筋はふたつある。94.4パーセントは不安定なバリウム137(137mと呼ぶ)になった後にγ線を出して安定なバリウム137になるが、5.6パーセントは安定なバリウム137に直接なって、γ線を出さない。ほとんどのセシウム137はγ線を出すので、ここでは簡単のためにそれだけを書いた。また、カリウム40は89.3パーセントがβ線だけを出し、10.7パーセントがγ線だけを出すので、「β線のあとでγ線」というのとは違う(2014/6/16)
- p56 最近話題のものとしてはストロンチウム90のほかにトリチウムもβ線しか出さない核種だが、トリチウムのβ線はエネルギーがとても小さいので危険度は低い(2014/6/16)
- p65 100面のダイスは実在するそうです(2014/7/9)
- p71 体内にはいったセシウムの10パーセントほどは非常に速く排出される。残りの分が半減期100日程度で排出される(2014/6/16)
- p71 内部被曝の量は生物学的半減期だけで決まるわけではなく、同じ1ベクレルのセシウム137を食べたときにいちばん被曝量が少ないのは5歳児で大人よりも3割ほど低い。3ヶ月児は大人の1.6倍ほど高い(2014/6/16)
- p72 ストロンチウムは吸収されにくい。ICRPがモデル計算に使っている数字によれば、食べたストロンチウムのうち、吸収されて血漿にはいるのは大人で30パーセント、1歳から15歳が40パーセント、3ヶ月児で60パーセントとなっている。さらに、そのうちで骨に吸収されるのは25パーセント(年齢でどう変わるか、僕にはよくわからない)程度(2014/6/16)
- p83 「放射能」は放射線を出す能力のことだが、その能力の大きさを測っているという意味で、ベクレルは「放射能」の単位(2014/6/17)
- p89 上述のとおりセシウム137の約95パーセントがβ線を出して不安定なバリウム137mになるが、それがすべてγ線を出すわけではなく、そのうちの10パーセントは内部転換という現象によってγ線を出さない。というわけで、1ベクレルのセシウム137があれば、正確にはβ線が1個とγ線が0.85個出る。ここでは、細かいことは言わずに、γ線を1個としたが、実際には15パーセントほど少ない(2014/6/16)
- p96 この本ではGy(グレイ)という単位に触れなかった。Gyは吸収したエネルギーそのものを1kg当たりになおしたもの。Gyは人間以外のものがエネルギーを吸収する場合にも使われる。人間が吸収したエネルギーのうちでα線の分を20倍すると等価線量(単位はSv)になる。実際にはSvよりもGyのほうが基本的な単位だが、ニュースなどで見る機会は少ない(2014/6/16)
- p102 空間線量率の測定にはいろいろややこしい点がある。まず、モニタリングポストという名前をよく聞くが、これは「空気吸収線量率」というものを測っており、からだへの影響を考えているわけではなく、空気が吸収するエネルギーを測っている。実際、空気吸収線量率の単位はSv/hではなくGy/h(グレイ毎時)である。空気吸収線量率から実効線量率(Sv/h)へはいちおう換算できて、緊急時には同じとみなし、平常時は0.8倍することになっている。つまり、実効線量率に対しては2割ほど過大評価なのだが、そこで「モニタリングポストの数値は小さめに出る」という話を思い出した人は、混乱するかもしれない。実は、空気吸収線量率を「1cm周辺線量当量率」という量に換算したければ、約1.2倍する必要がある。この1cm周辺線量当量率の単位もSv/hである。
建前として、単位がSv/hで表示されているものはモニタリングポストではない。ニュースで福島県内のモニタリングポストとして紹介されるものの多くが、実はモニタリングポストではなくリアルタイム線量測定システムというものだというのは知っておくといいかもしれない。リアルタイム線量測定システムは「1cm周辺線量当量率」をSv/h単位で表示する。これは手で持って使うサーベイメーター(単にシンチレーション・カウンターと呼ばれたりするもの)と同じで、それを自動化している装置だと思えばよい。これがモニタリングポストと誤解される原因は形が似ているからだが、福島県内に設置されている数はこちらが圧倒的に多い。1cm周辺線量当量率は実効線量率の目安となる量である。実効線量率は直接測定できない量なので、1cm周辺線量当量率を測って、実効線量率とみなすことになっている。1cm周辺線量当量率はたいていのエネルギーで実効線量率よりも大きくなるように(過小評価しないことを目的として)決められている。そのため、セシウム137のγ線については、上に書いたようにモニタリングポストのGy/hよりも1.2倍ほど大きな数字を表示する。「モニタリングポストは空間線量率を過小評価している」という誤解はここからきている。モニタリングポストも実効線量率は過小評価していない。γ線が周囲から当たるような現在の状況では、リアルタイム線量測定システム(そしてサーベイメーター)で測定する1cm周辺線量当量率は実効線量よりもかなり大きな数字となり、おおむね0.6倍したものが実効線量率である。
さらにややこしいことに、ガラスバッジや積算線量計など身につけて空間線量の積算値を測定する装置(個人線量計)では、「1cm個人線量当量」(積算なので「率」ではない)というものを測定している。これも実効線量の目安となる量で、単位はSv。放射線が正面だけから当たる状況なら、1cm周辺線量当量と同程度の量と考えておけばよい。あるいは、γ線が周囲から当たる場合でも、遮蔽がなければ、個人線量計とサーベイメーターの値の積算値は同程度になる。ところが、γ線が周囲から当たる現在の状況で個人線量計を胸に装着すると、背中側からのγ線が人体によって遮蔽され、個人線量計の示す数値は低くなる。では、どのくらいになるのかというと、実はこの状況下では個人線量計の数値が実効線量にほぼ一致することがわかっている。つまり、ガラスバッジや積算線量計で計測した個人の被曝量はサーベイメーターやリアルタイム線量測定システムの数値を積算したものよりもずいぶん小さく出るのだが、実はこれが実効線量に近い数値なのである。
つまり、空間線量率からの被曝量推定をやめて、ガラスバッジや積算線量計で被曝量を測ることにすると、それだけで数値が小さくなるが、決して「過小評価で小さく見せかけている」のではなく、むしろそれが実効線量に近いということは知っておくといいと思う。人間がいる場所の数値を測っているという意味でも、実際の被曝量を知るにはガラスバッジや積算線量計のほうがよいと思う。さまざまな測定値の関係は、clear_wtさんがまとめられた図( https://twitter.com/clear_wt/status/380269805825048576/photo/1がわかりやすい(2014/6/16)
- p104 ガイガーカウンターはβ線を拾いやすい。β線も拾うほうがいいのではないかと考える向きもあるかもしれないが、γ線とβ線の感度が違うので、だめなのだ。大雑把に言うと、ガイガー管にはいってきたβ線はほぼすべて勘定するのに対して、γ線はごく一部しか勘定しない。ガイガーカウンターで空間線量率を表示するときは、セシウム137のγ線だけを数えていると仮定して、はいってきた放射線の数とSv/hの換算をしている。ところが、ガイガーカウンターはβ線とγ線を区別できないので、β線がはいるとこれを全部γ線とみなしてしまい、本来のβ線とγ線の数の比よりもはるかにβ線をたくさん数えて、高い空間線量率をはじき出してしまうことになる。ガイガーカウンターで空間線量率を測りたいときには、β線がはいらないようにしなくてはならない。では、β線を測るときにはどうするかというと、Sv/hではなく「一秒間に何個の放射線がはいったか」を表すCPM(count per minute)という数値で表示する。これは土壌や体の表面などに放射性物質が付着しているかどうかを調べる目的に適している(2014/6/16)
- p107 雨樋の下や側溝などの狭いに場所に放射性物質が溜まっている場合、そこからのγ線の強度はおおむね「距離の二乗に反比例」する。つまり、2m離れた位置でのγ線強度は1mの位置での強度の1/4になるので、ちょっと離れれば影響しない。この「距離の二乗に反比例」は放射線源に近づき過ぎると成り立たないし、何10mも離れたところではやはり成り立たない。「距離の二乗に反比例」を内部被曝の場合に拡大解釈して、線源に近づけば近づくほどいくらでも放射線が強くなるという主張も見かけるが、それは完全に誤り。どれほど近づこうと、1ベクレルの放射線源からは毎秒1崩壊分、100ベクレルの放射線源からは毎秒100崩壊分の放射線しか出ないので、それ以上の放射線を受けることはありえない。また、β線は空気分子に当たって軌道を変えるので、そもそも遠方まで届かないから、「距離の二乗に反比例」と考えないほうがよい(2014/6/17)
- p115 食品中の放射性セシウムの基準値は、セシウムの1/10だけストロンチウム90(セシウムよりも預託実効線量が大きい)が含まれると仮定し、また、流通している食品の半分が基準値まで汚染されていても年間の預託実効線量が1mSvを超えないように設定されている。子どもはもっと被曝するのではないかという疑問を持つかたもおられるかもしれないが、実は年齢別に被曝量を計算して、いちばん被曝量の大きい年齢で1mSvを超えないように設定されている(2014/6/17)
- p119 1ベクレル食べたときの預託実効線量は年齢によって違い、セシウム137とストロンチウム90を比較すると
| 3ヶ月 | 1歳 | 5歳 | 10歳 | 15歳 | おとな |
137Cs | 21 | 12 | 9.6 | 10 | 13 | 13 |
90Sr | 230 | 73 | 47 | 60 | 80 | 28 |
となっている(ICRPの数値。単位はナノシーベルト)。おとなでは本に書いたとおりストロンチウム90が2倍程度だが、3ヶ月児では11倍なのでひと桁大きく、ストロンチウム90による食品汚染がひどいときには注意が必要となる。ただし、現状ではストロンチウム90は非常に少ないので、この数値は参考程度でいいと思う。もちろん、食品の基準ではこの年齢別の数値が考慮されている(2014/6/17)
- p151 被爆者調査のごく最近のデータでは50mSv程度までは影響が見えているようでもあるのだが、とりあえず従来通りに100mSv以下では影響はよくわからないとしてある。ここまでは現時点でのコンセンサスだと思う。どのみち、100mSv以下でもリスクは被曝量に比例すると考えるのが防護の基本方針なので、結論に違いはない。なお、100mSv以下程度では影響が小さくて疫学調査ではよくわからないというのが正しく、決して「100mSv以下では影響はない」ではない。また、低線量ほど影響が大きいという異説もあるが、そういう結論は出せるようなデータではない。あくまでもマイナーな異説にすぎず、基本的には無視していいと思う。多くの専門家が、100mSv以下では影響が小さすぎてはっきりしないものの被曝量に比例としておけば充分に安全だと考えている(2014/6/17)
- p150 30パーセントという数字は現在の「死因の約30パーセントはがん」というところから取っている。実際、環境省の資料のp114に掲載されている図でも、基本的に「いちから」と同じく「被ばくしていない時のがん死リスク」を30パーセント程度としている。いっぽう、生涯のがん死亡リスクは2012年のデータで男性が26パーセント、女性が16パーセントなので( http://ganjoho.jp/public/statistics/pub/statistics01.html、これに対しては、30パーセントという数字は(特に女性について)高く表現しすぎている。男女均すと20パーセント台の前半が妥当な数字だろうか。もともとの意味からすれば「生涯のがん死亡リスク」と比較するのが正しいようでもあるが、「現時点で死因の約30パーセントはがん」というデータを使うのもわかりやすいと思う(2014/6/19)
- p151 少ない被曝量でも「被曝による余分なガンのリスク」は被曝量の総量に比例して増えると考えましょうというのが、「線形閾値なし仮説(LNT)」と呼ばれるもので、ICRPの放射線防護の基本になっている。線形とは比例するという意味だが、「それまでに被曝した総量に比例」というところがポイントで、時間が経つとともに被曝量が増えていくと、それに比例して「余分なガンのリスク」も増えると考える。多くの人が、被曝総量が同じでもゆっくり被曝したほうがリスクは小さくなると考えているので、この線形閾値なし仮説は今回のような低線量被曝が続く状況では発ガンリスクを多めに見積もることになる。それを一部考慮して補正したのが、低線量ではリスクを半分にするという考え(この係数をDDREFという)だが、そうまでして線形閾値なし仮説を採用するのには理由がある。線形というのは実は足し算してよいという意味で、外部被曝も内部被曝も実効線量に換算してしまえば、あとはただ足し算して総被曝量を出せばリスクが見積もれる。また、預託実効線量の考え方も「被曝量は足し算できる」ことを前提にしないと意味がないことに注意。「線形仮説」は実用上とても強力なのである。もちろん、低線量で半分にするという操作をすること自体、「線形閾値なし」が広い線量範囲にわたって成り立っているわけではないことを示している。この半分という数はICRPが安全を見込んで決めたものだが、アメリカのBEIRはDDREF=2/3がよい(ICRPは下げすぎ)としているし、低線量でも下げない流儀もある。つまり、低線量でのガンのリスクはどの方針を採用するかで2倍違うわけだが、もともと小さなリスクを問題にしている現状では、あまり目くじらを立てずに、2倍くらいは違うかもしれない程度に考えておくのがいいのではないかと思う(2014/6/17)
- p156 ICRPは遺伝的影響(親が被爆後に妊娠して産まれた子どもに影響が出ること。胎内被曝ではない)もガンリスクと同様に「線形閾値なし」としている(ICRPが閾値なしとしているのはこのふたつだけ)。ただし、比例係数はガンにくらべて遥かに小さい。一方、本文にも書いたとおり、被爆二世調査では、被曝の影響は見られていないので、疫学的には遺伝影響はないと考えられている。遺伝子の変異率は上がっているが、変異の内容は被曝しなくても生じる変異と変わらないというデータもあるようだ(2014/6/19)
- p171 せっかく除染してもまた線量が戻るという話を除染の初期には耳にしたが、ここに書いてある郡山市のような除染をすれば、少なくとも普通の住宅地ではそのようなことは起きない(表土を剥いで、片付けてしまうのだから、当然と言えば当然)。実際、小峰さんの実家を除染1年後に再測定したところ、すべての場所で除染直後よりもさらに線量率は順調に下がっており(自然減)、除染の効果は確実にあったと言える。もちろん、地形や条件によっては、除染が難しい場所もある。なお、除染で出た土をフレコンに入れて積んである場所もあるが(小峰さん実家では地下に埋めた)、土自体が放射線をかなりよく遮蔽するので、その付近の線量が目に見えて上がるわけではない(2014/6/17)
- p179 平常時の基準は追加被曝が年間1mSvと言われると、それを超えたとたんに極端に危険になるかのように思う人もいるようなのだが、平常時の基準というのはそれがずっと続いても目立った影響は出ないように余裕を持って決められている。だからこそ、一時的には年間20mSvでもという議論になるし、職業被曝のは場合は年50mSvが認められている。いかに、職業とはいえ、高い確率で健康に影響が出るような線量を基準にするはずがない。なんにつけ、平時の基準値は余裕をもって決められている。また、1mSvや20mSvという数値は「シーベルト」という単位を使ったときに「きりのいい数字」として設定されているだけだということも頭にいれておいたほうがいいと思う。その程度に大雑把に決められた数字だということ(2014/6/17)
- p181 無理のない範囲で被曝量を減らすことをICRPはALARA(as low as reasonably achievable、合理的に達成できる範囲でできるだけ低く)の原則と呼んでいる。実際、どんな無理をしてもよければ、たぶん被曝量はいくらでも下げられるのだと思うが、それによって生活に支障をきたしてしまっては、なんのために被曝量を下げるのかわからない。最終的な目標は「被曝量」を減らすことではなく、「よりよく暮らす」ことなのだと思う。無理しすぎないというのはとても重要な考え方(2014/6/19)